所得税 2019.4.20

医療費控除

病気やけがをして診察してもらったり、薬を購入したりすると、所得税の額を減らすことができます。これを医療費控除といいます。ただし、医療費控除を受けるためには、一定の要件を満たしている必要がありますので、その要件についてご説明します。

医療費控除の概要

あなたがあなたや生計を一にする配偶者その他の親族のために支払った医療費がある場合には、以下の算式により計算した金額の所得控除を受けることができます。
(算式)
医療費控除額(最高200万円)=(実際に支払った医療費の合計額-(1)の金額)-(2)の金額
(1)保険金などで補填される金額
(例) 生命保険契約などで支給される入院費給付金や健康保険などで支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金など
(注) 保険金などで補填される金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引きません。
(2) 10万円
(注) その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額
一般的に、医療費が10万円を超えたら医療費控除が適用される、と言われているのは、(2)の金額が10万円だからです。しかし、総所得金額等(収入金額ではありません。)が200万円未満の場合(給与所得しかなければ、収入金額は約310万円)は、医療費が10万円より少なくても適用されます。

医療費控除の対象となる医療費

医療費控除の対象となる医療費の要件は以下になります。
① あなたが、自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費であること。
② その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費であること(未払いの医療費は、現実に支払った年の医療費控除の対象となります。)。

具体的には、以下のようなものが対象となります。

医療費控除の対象となるもの 医療費控除の対象とならないもの
医師、歯科医師による診療や治療の対価 容姿を美化し、容貌を変えるなどの目的で行った整形手術の費用
人間ドックなどの健康診断や特定検診で、健康診断で重大な疾病が見つかり継続して治療が必要となった場合など一定の場合の健康診断や特定検診の費用、妊婦検診 左記以外の健康診断の費用
通院費 タクシー代(電車やバスを利用できない事情がある場合は除きます)、自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場代
入院中のベッド代 自己都合による差額ベッド代
入院中の食事代 出前や外食の費用
義足、義歯や補聴器等の購入費用 治療を受けるために直接必要としない、近視や遠視のための眼鏡、補聴器等の購入費用
風邪の治療などのために使用した一般的な医薬品の購入費用 健康増進のためのサプリメントの費用
医師等の処方や指示により医師等による診療等を受けるため直接必要なものとして購入する医薬品の購入費用 疾病予防のための予防接種の費用

特に歯の治療に注意しましょう

医療費控除の対象には、保険の適用されない自由診療も含まれます。歯の治療の場合、インプラントや義歯、歯列矯正など、治療費が高額になることがあります。医療費控除の適用を受けられるかもしれませんので、領収書は大事に保管していてください。
ただし、ホワイトニングや美容のための歯列矯正などは、医療費控除の対象になりませんので、ご注意ください。

セルフメディケーション税制

平成28年度の税制改正でセルフメディケーション税制が作られました。2017(平成29)年1月1日から2021(令和3)年12月31日までの間、適用を受けることができます。
① 要件
セルフメディケーション税制は、以下の場合に適用されます。
(ア) あなたが健康の保持増進及び疾病の予防として一定の取組を行っていること。
(イ) あなたや生計を一にする配偶者その他の親族のために特定の医薬品の購入費を支払っていること。
(ウ) 支払った特定の医薬品の購入費の合計額(保険金などで補填される部分を除きます。)が12,000円を超えていること。

② 医療費控除額
医療費控除額(最高88,000円)
=(実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補填される金額)-12,000

③ 一定の取組
以下のような取組が該当します。
(ア) 人間ドック、各種健(検)診等
(イ) 生活保護受給者等を対象とする健康診査
(ウ) 定期接種、インフルエンザワクチンの予防接種
(エ) 事業主検診
(オ) 特定健康診査(いわゆるメタボ検診)、特定保健指導
(カ) 市町村が健康増進事業として実施するがん検診

④ 特定の医薬品
セルフメディケーション税制の対象となる商品には、購入の際の領収書等にセルフメディケーション税制の対象商品である旨が表示されています。具体的な品目一覧は、厚生労働省ホームページに掲載の「対象品目一覧」をご覧ください。
なお、一部の商品には、以下のようなマークが掲載されていますので、参考にしてください。

従来の医療費控除とセルフメディケーション税制の選択適用

従来の医療費控除とセルフメディケーション税制はどちらか一方しか適用できません。どちらが有利かは一年が終わらないとわかりませんので、医療費の領収書も特定の医薬品の領収書も、捨てずに保管しておいてください。
一度確定申告書を提出すると、更正の請求や修正申告書を提出するときには、セルフメディケーション税制と従来の医療費控除の選択を変更することはできません。どちらを選択するほうが有利かをしっかりご検討の上、確定申告を行ってください。

医療費控除を受けるための手続き

医療費控除を受けるためには、確定申告書に以下の書類を添付する必要があります。なお、領収書の添付は2017(平成29)年分以降不要となりました(2017(平成29)年分から2019(平成31)年分までの確定申告については、医療費の領収書の添付又は提示によることもできます。)。
① 従来の医療費控除
・医療費控除の明細書
※医療費の領収書は自宅で5年間保存する必要があります。

② セルフメディケーション税制
・セルフメディケーション税制の明細書
・適用を受けようとする年分に一定の取組を行ったことを明らかにする書類(健康診断の領収書等)
※特定の医薬品の購入費の領収書は自宅で5年間保存する必要があります。

少し細かい論点

医療費控除の対象となる医療費の中に、介護保険制度の下で提供された一定の施設・居宅サービスの自己負担額というものがあります。平成12年6月8日付課所4-11「介護保険制度下での居宅サービスの対価に係る医療費控除の取扱いについて(法令解釈通達)」において、医療系サービスが伴わないと医療費控除の対象とならないとしています。これに基づいて国税不服審判所においても平成21年6月12日に裁決が下されています。
今後医療だけではなく、介護の需要も高まることを考えれば、医療系サービスを伴わない介護サービスにかかった費用についても、所得控除ができる仕組みができないといけないのではないか、と個人的には思います。

医療機関が行える対策

医療機関を受診された患者さんは、受診した内容が医療費控除の対象かどうかをわからないことがほとんどです。確定申告の時期になって、医療費控除の対象になるか、慌てて調べることになるでしょう。そして、本来医療費控除の対象にならないものも、医療費控除の対象として申告してしまうこともあるでしょう。
そこで、例えば、医療機関が領収書を発行するときに、医療費控除の対象となるものとならないものがわかるように記載しておくと、患者さんにとってはありがたいと思います。また、医療費控除の概要や対象となる医療費の例示を受付に掲示したり、ホームページに記載したりするのもよいと思います。

マイナンバーカードを活用した医療費控除の手続き

政府は2019(平成31)年3月15日にデジタルファースト法案を閣議決定しました。これに伴い、マイナンバーカードを利用した医療費控除の簡素化が予定されています。
デジタルファースト法案は、行政手続きを電子化する法案で、マイナンバーカードの活用も盛り込まれています。政府は2021(令和3)年3月にマイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにする方針で、社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険中央会のシステムと連携させていくとのことです。さらに国税庁のシステムと連携することで、マイナンバーカードを用いて、国税庁の確定申告書作成サイトから申告書を作成すると、医療費の集計が自動でなされるようにするようです。マイナンバーカードを利用して申告書を作成した場合、領収書の保存も不要になる予定です。
マイナンバーカードを利用して電子申告をしている場合には、自分で医療費の集計をする必要がなく、非常に便利ですが、いくつか課題があるように思います。

① 自由診療が含まれない

健康保険証と連携させるということなので、社会保険診療については集計できると思いますが、自由診療については自分で集計する必要があります。領収書を見て、社会保険診療か自由診療かを確認しないといけないですね。

② 減額査定があった場合には支払った医療費よりも少ない医療費控除しか受けられない可能性がある

レセプトの記載内容や点数計算が誤っているなどの場合、社会保険診療報酬支払基金などの審査支払機関から減額査定を受けます。厚生労働省は、窓口負担額に対して1万円以上の減額が判明した場合、保険者から被保険者(患者)へ通知するように指導しています。被保険者は医療機関に相談すると医療費の返還を受けることができます。
さて、減額査定を受けていても、少額のため被保険者に通知がいかない場合や返還を受けなかった場合、医療費控除は実際に支払った金額は減額査定を考慮した審査支払期間が把握している金額と異なることになります。すなわち、支払った医療費よりも少ない医療費控除しか受けることができないことになりますので、適切な対応策が講じられる必要があると思います。

③ マイナンバーカードを誰もが利用できるわけではない

マイナンバーカードの利用範囲を拡大しようと進めている政策ですが、今回の医療費控除についてはマイナンバーカードを作るだけではなく、カードリーダーも必要になるかもしれません。ID・パスワード方式により確定申告する場合でも、一度税務署に行くなど、すぐに使えるわけでもなく、医療費控除を受けるだけの人はなかなか行わないのではないかと思います。また、税理士が代理送信するときはマイナンバーカードを預かりませんので、代理送信の場合の手続きも検討していただきたいものです。

まとめ

  • 医療費控除の対象となる医療費をよく確認しましょう。
  • 医療費や特定の医薬品の購入費の領収書は、捨てずに保管してください。
  • 従来の医療費控除とセルフメディケーション税制の選択は、更正の請求や修正申告では変更できないので、選択は慎重に行いましょう。
  • マイナンバーカードを活用した医療費控除の手続きの簡素化が進められています。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
(国税庁HP  No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除))

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm
(国税庁HP  No.1122 医療費控除の対象となる医療費)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1124.htm
(国税庁HP No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1126.htm
(国税庁HP No.1126 医療費控除の対象となる入院費用の具体例)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1128.htm
(国税庁HP No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1129.htm
(国税庁HP No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html
(厚労省HP セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1131.htm
(国税庁HP No.1131 セルフメディケーション税制と従来の医療費控除との選択適用)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/iryoukoujyo_meisai.pdf
(国税庁HP 医療費控除は領収書が提出不要となりました)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/shinkoku/000608/01.htm
(個別通達 平成12年6月8日 課所4-11 介護保険制度下での居宅サービスの対価に係る医療費控除の取扱いについて(法令解釈通達))

http://www.kfs.go.jp/service/JP/77/10/index.html
(平成21年6月12日裁決 医療系サービスが伴わない居宅サービスの対価)

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