所得税 2019.2.18

非常勤医師への給与

常勤の医師だけでクリニックや病院を運営していくのは難しいので、通常クリニックや病院は、ほかの病院の医師や開業医に非常勤医師として手伝ってもらっているものと思います。本人に直接報酬を支払う場合には、源泉所得税を徴収して納付する必要がありますが、源泉所得税はどのように計算したらいいのでしょうか。

給与?報酬?

弁護士や税理士などに支払う報酬は、報酬として源泉徴収をする必要があります(税理士法人など法人に対して支払うものは、源泉徴収する必要はありません)。非常勤医師はクリニックや病院の従業員ではないので、弁護士や税理士と同じように、報酬として源泉徴収するように思えますが、実際には給与となります。
国税不服審判所の昭和59年5月24日裁決と昭和62年12月25日裁決において、非常勤医師の受ける報酬は雑所得や事業所得ではなく、給与所得として取扱うとされました。その根拠は、

  1. 非常勤医師としての服務は、病院長等の管理監督の下に一定期間労務を提供していたものと認められること
  2. 診療に必要な人的、物的設備は病院等が提供していること等からみて請求人の行った労務の提供に独立性があるとは認められないこと

とされました。少し難しく書いてありますが、従業員と同じように働いているので、もらう報酬は給与となる、と考えていただければいいと思います。

日額表?月額表?甲欄?乙欄?丙欄?

給与所得の源泉徴収税額表をご覧になったことがありますか。
国税庁のホームページなどを見ると、月額表と日額表に分かれ、それぞれさらに甲欄、乙欄、丙欄と分かれています。違いは何でしょうか。細かい内容は国税庁のHPを参照していただきたいのですが、簡単に記載すると以下のようになります。

月額表 10日以上の周期で、定期的に給与を支払う場合は、月額表を使用します。
日額表 1週間より短い期間で支払う給与は日額表を使用します。働いた都度支給されるようなものは、日額表の対象になります。
甲欄 メインの(入職した時や年末調整の時に、扶養控除等申告書を提出する)勤務先から給料を支払う場合に使用します。
乙欄 甲欄や丙欄を使用する以外の場合に使用します。
丙欄 日雇賃金の支払いをする場合に使用します。

源泉徴収する際の税率は月額表のほうが日額表よりも低くなっています。ですので、給与の支給を受ける非常勤医師の先生も、できれば月額表で源泉徴収してほしいと思っています。この点について、昭和57年に社団法人全日本病院協会などの団体が国税庁に確認を取りました。以下のような場合には、月額表を使用することができます。

  1. 月間の給与総額をあらかじめ定めておき、これを月ごとに又は派遣を受ける都度分割して支払うこととするもの
  2. 月中に支払うべき給与をまとめて月ごとに支払うこととするもの

市販されている書籍などでは、この個別通達をもとに、非常勤医師については月額表の乙欄か日額表の乙欄で源泉徴収する、と解説しています。

もう少し踏み込んだ判定

ところで、非常勤医師の源泉徴収について、平成23年に国税不服審判所である裁決がされました。上記の個別通達を踏まえて月額表を用いて源泉徴収したのですが、国税当局より否認されました。細かい判断根拠などは割愛しますが、以下のような結論が出ました。

  1. 大学病院から派遣された医師について、四半期や半期ごとにおおよそ何回派遣するかは決めていたものの、誰が派遣されるかが定まっていない場合には、日額表乙欄を使用する。
  2. 開業医が定期的に勤務する場合(例えば、毎週月曜日と木曜日など)には、月額表乙欄を使用する。
  3. 開業医が依頼された都度勤務し、継続して勤務する取決めもない場合には、日額表丙欄を使用する。

書籍などでは、丙欄の記述はあまりありませんが、丙欄を使用する可能性もありますので、十分注意が必要です。

まとめ

  • 非常勤医師に支払う報酬は、給与所得となります。
  • 報酬額の決め方や支払い方によって、源泉徴収する税額が変わります。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2511.htm
(国税庁HP  No.2511 税額表の種類と使い方)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/gensen/821025/01.htm
(個別通達 昭和57年10月25日 直法6-8 派遣医の給与所得について適用する源泉徴収額表の区分等について)

http://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0204020000.html
(昭和59年5月24日裁決、昭和62年12月25日裁決 非常勤医師の報酬は給与所得)

http://www.kfs.go.jp/service/JP/83/12/index.html
(平成23年6月7日裁決 非常勤医師の報酬に適用する源泉徴収税額表の区分等ついて)

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